平成18年特(わ)第4205号
迷惑防止条例違反
裁判速記録
(午後の部)
日時・平成19年3月28日(木)
於・東京地方裁判所第429号法廷
 
  1. 神坂裁判長 それでは、再開いたします。  検察官の方で、ビデオ撮影報告書について、同意部分の範囲をご検討いただくことになっていましたけれども、いかがでしょうか。
  2. 検察官1 同意、不同意の部分を特定しまして、弁護人の方に伝えました。これは今、どこからどこまでということを申し上げた方がよろしいんですか。
  3. 神坂裁判長 1項から何項の部分ということでよろしいでしょうか。何か複雑なんですか。
  4. 検察官1 そうですね。ちょっと細かいところが若干あるんですけれども。
  5. 神坂裁判長 文章の中では。
  6. 検察官1 そうですね。
  7. 神坂裁判長 じゃ、趣旨は伝わっていますね。
  8. 検察官1 伝わっていると思います。
  9. 神坂裁判長 弁護人の方では、同意のあった部分の抄本という形になろうかと思いますが、そういう形でよろしいですか。
  10.      

    〔弁護人「はい」と発言〕

  11. 神坂裁判長 それでは、その同意の部分、最初からそういうご意見だったということでよろしいですかね。要するに、撤回部分ということをせずに。
  12. 検察官1 はい。
  13. 神坂裁判長 午前中いただいた部分が、同意があった部分ということになるわけですね。
  14.      

    〔弁護人「はい」と発言〕

  15. 神坂裁判長 それでは、本日同意をいただいたビデオ撮影報告書と検察官調書と「再現実験ビデオ」と題するDVDの前半部分。これは前半だけがあるんですか。
  16. 弁護人1 両方入っているんで、前半だけだと思います。
  17. 神坂裁判長 じゃ、一部分だけ本日採用したいと思います。  取り調べを行いますので、再生いたしますが。
  18. 弁護人1 後日、前半だけのもので差しかえますので。
  19. 神坂裁判長 証拠の請求番号が狂ってしまうから、そこは取り扱いをちょっと協議いたしますけれども、とりあえずこちらで採用させていただきます。  弁護人のご要望もあるということですし、見てもわからないのではないかというあれがありますので、通常の速度で1回、それからスローというか、速度を落としたもので1回再生することに。
  20. 弁護人2 本日ご採用いただきました報告書の概要をまず説明させていただいた後で見ないと、やっぱりちょっとわかりにくいと。
  21. 神坂裁判長 じゃ、ビデオ撮影報告書について、要旨告知を。
  22. 弁護人2 あるいは、できましたらビデオの頭の画面を一時停止の状態で出していただきまして、それを見ながら私がこの内容を説明すると、一番わかりやすいのかなとも思いますね。
  23. 神坂裁判長 内容的には、ご同意いただいた報告書部分の朗読ということでよろしいですか。
  24. 弁護人2 はい、そうです。同意した部分だけです。
  25. 神坂裁判長 再生しながら要旨告知をすると。
  26. 弁護人2 最初の頭を、もしあれでしたら私の方でリモコン操作をさせていただいて。
  27. 神坂裁判長 検察官の方は。
  28. 検察官1 結構です。
  29. 神坂裁判長 それじゃ、どうぞ。
  30.     

    〔ビデオ上映(一時停止画面)〕

  31. 弁護人2 これは今一時停止です。この状態でちょっと説明させていただきます。  実験の日時、場所につきましては、この報告書に記載されているとおりですので、省略いたします。  この人物の関係から説明させていただきますと、この画面のこちらにいらっしゃる女性が仮想被害者で、Tさんという女性の方です。この方の身長は155センチということになっております。ヘッドホンを耳にかけて、右腕を曲げて、右腕に手提げバッグをかけて持った状態で立っていただいております。  それから、仮想被告人としましては、この画面でいいますと、被害者の右側の方、被害者から見て被害者の右手の方のかなり後ろに、右手を上に上げてつり革を持つような動作をして、顔をうつむきかげんに下げている男が1人いますけれども、これが仮想被告人の方で、現実の被告人がそこに立って、その役をやっています。被害者から見て被害者の右側にいる、この手をずっと上げているのが被告人本人になります。  それから、仮想目撃者につきましては、本来、目撃者はこのあたり、これでいいますと、被害者の左側に立っている前提なんですが、そこに立たせると、ビデオ撮影のカメラが目撃者に遮られてしまいまして、ビデオで見て、いろいろな周囲の動きが非常にわかりにくくなるので、このビデオで撮ったときは、目撃者がいない状態の状況でビデオ撮影をしました。  それから、この画面の右側に、携帯電話を見て、頭をちょっとうつむきかげんにしている、黒い服を着た女性が映っていますけれども、この女性は160センチ程度の高さに設定しています。位置関係としては、仮想目撃者と仮想被害者の間に立っているという位置関係です。  それから、仮想真犯人ということになりますが、仮想真犯人役は、この被害者役の女性の真後ろに立っている、スーツを着ているちょっと年配の男性が映っていますが、こちらの方にやっていただいているということです。  あと、この右上の方の小さい、全体が映っている画面を見ていただくと、向かって左側の方に背の高い男性がつり革を持っているような感じで立っています。これは仮想Kさん(K証人)ということで、こういう位置に立っていただいたということです。この仮想Kさんから見て左手側に女性が立っておりますけれども、これは仮想乗客ということで、Kさんの左側に女性がいたとしたらという前提で、そこに立っているということです。  あと、仮想Nさんという方もこの図面に映っています。真犯人役の男性の後ろ側に後ろを向いて、背中を向けて立っている男性がいますけれども、これが仮想Nさんということです。  そのほかの乗客につきましては、ちゃんと5人の方に参加していただいて、このそれぞれの位置に立っていただきました。  この最初の画面は「左回り」と書いてあります。被告人の供述によりますと、被害者は左回りで動いたのではないかということですので、それに基づいて、被害者が左回りで振り向いたところを撮影したものです。  仮想真犯人役の方の現実の動きにつきましては、実際に被告人がそれを目撃しているわけではありませんが、もし真犯人がこういう動きをすれば、こういうことも考えられるという1つの仮説として提示しています。  では、ビデオの方を。  まず、通常の速度で左回りパターンです。この左回りパターンの次に実は右回りパターンをやっています。右回りパターンというのは被害者が右側に振り向く設定で、被害者の供述が右回りになっているということですので、それに基づく再現です。両方の作業をやっています。  まず、通常の速度で再生させていただいて、左回りパターンを1回やりまして、その後、右回りパターンをやります。その後、スローで再生させていただきます。
  32.     

    〔ビデオ上映(動画)〕

  33. 弁護人2 今のだと、かなり速いので、動きがよくわからないと思いますので、見ていただきたいと思います。一応設定では、この被害者の方が振り向こうとして、手を上げてヘッドホンに手をかけるのがわかると思うんですが、被害者役の方がヘッドホンに手をかけたぐらいのタイミングで、この真犯人役の人が動き出すという設定になっているわけです。  これが右回りパターンです。ここからスタートです。実際には密着した状態なので、ここからスタートは絶対できないなと思います。ヘッドホンに手がかかって……。  もう一度、通常速度です。
  34. 神坂裁判長 よろしいですか。  今ので、ビデオ撮影報告書の要旨告知も終わったという扱いでいいですね。
  35. 弁護人2 ええ。厳密にはカメラの位置とか、そういうものもありますが。
  36. 神坂裁判長 それと、Yさんの供述調書ということで、要旨を告知されますか。内容はもちろん了解されているでしょうから、検察官、弁護人の方から要旨を告知してもらわなくても特によろしいですか。
  37. 検察官1 いずれでも結構です。
  38. 神坂裁判長 それじゃ、これで取り調べを終了いたします。  それでは、引き続いて被告人質問に移ります。  被告人、前の席の方に。いすがありますので、座ってください。
  39.     

    〔植草被告人、証言席に着席〕

  40. 神坂裁判長 それでは、今から質問に入りますので。  弁護人の方からどうぞ。
  41. 弁護人3 まずは弁護人の「弁護人3」からお聞きしますが、尋問の途中で大崎駅近辺の地図を示したいんですけれども。普通の市販の地図です。それは後で証拠で提出したらよろしいですか。
  42. 神坂裁判長 同意いただけるものなんでしょうか。
  43. 検察官1 ちょっと見ていただきたいんですが。
  44. 弁護人3 単なる市販の図面です。
  45. 検察官1 結構です。
  46. 神坂裁判長 じゃ、一応後に請求予定ということで。
  47. 弁護人3 はい、わかりました。じゃ、後に請求予定ということで、これを使います。  それでは、弁護人の「弁護人3」からお伺いします。  平成18年9月14日付の被告人員面調書(司法警察員面前調書)の2丁から3丁を示します。  第4項以下、5項というところに、被告のご経歴が記載されてあるんですけれども、ここに記載されていることに間違いはありませんか。
  48. 植草被告人 おおむね間違いはありませんが、細かいことで、中ほどに平成8年8月から野村総合研究所主席エコノミストとあります。野村総合研究所に戻ったのがこの時期なんですが、その後、肩書は、まず主任エコノミスト、その後、上席エコノミスト、その後、主席エコノミストと変わっておりますので、そこらの細かい点が違います。  それから、その下の方に「同年5月から自宅で経済分析関係のスリーネーションズリサーチ株式会社を設立し」とありますが、当初は有限会社スリーネーションズリサーチインスティチュートという名前で、その後、株式会社に改組しておりまして、設立の年月は「同年5月」となっておりますが、「同年7月」で、その点が違います。
  49. 弁護人3 この違う点について訂正を求めなかった理由は何かあるんですか。
  50. 植草被告人 取り調べの際に細かい説明をしようと試みましたけれども、そこまで細かいのはいいということで、そういう訂正は入っておりません。
  51. 弁護人3 平成18年9月13日の事件当日のことについてお聞きします。  この日の夜、京浜急行の電車に乗る以前は、どこで何をしていたのですか。
  52. 植草被告人 JR大崎駅近くの中華料理店で、私が顧問をしております会社の宴席がありまして、その宴席に午後6時半から出席しておりました。
  53. 弁護人3 どのような趣旨の宴席だったのですか。
  54. 植草被告人 私が顧問をしておりました会社で8月末に社長交代がありまして、その新社長が主催して、経営企画室と社長室のメンバーを中心に懇親会が設営されまして、それに出席しておりました。
  55. 弁護人3 ちなみに、その宴席より前は何をしていたのですか。
  56. 植草被告人 その前は、別に顧問をしております会社が外苑前近くにありまして、そちらに行っておりました。
  57. 弁護人3 その別の顧問会社からは、どのようにして移動してきたのですか。
  58. 植草被告人 その会社は地下鉄の外苑前の近くにある会社ですが、その会社を出まして、外苑前から地下鉄を利用して、新橋経由、その後JRに乗りかえて大崎まで行って、その宴席に出席しました。
  59. 弁護人3 被告人は、ふだんからタクシーを利用されることが少ないのですか。
  60. 植草被告人 ふだんの交通手段は、自分で車を運転しての移動が多いですけれども、車でない場合は、電車の利用が中心でした。
  61. 弁護人3 この日は、宴会ということで自家用車を使わなかったわけですか。
  62. 植草被告人 当日、午前中は車を使っておりますけれども、夜、宴会の予定がありましたので、車を置いて、その後は電車で移動しております。
  63. 弁護人3 タクシーを頻繁に利用しない理由は何かありますか。
  64. 植草被告人 私の事務所が駅から歩いて20〜30秒程度の場所にあり、電車の利用が非常に便利だったことと、経費節減という意味で、タクシーの利用はできるだけ控えておりました。
  65. 弁護人3 ちなみに、今おっしゃった2つの顧問会社がありましたが、それは今でも顧問関係にあるのですか。
  66. 植草被告人 現在は顧問関係はありません。
  67. 弁護人3 いつ顧問関係を解消されたのですか。
  68. 植草被告人 昨年9月のこの事件が発生以後です。
  69. 弁護人3 なぜ顧問関係を解消されたのですか。
  70. 植草被告人 この事件が発生した後に、会社から顧問契約を解消するという通知がありまして、解消されております。
  71. 弁護人3 この日、その宴席以前にもお酒を飲んでいたということはありますか。
  72. 植草被告人 いいえ、ありません。
  73. 弁護人3 その宴席ではどのようなものを飲んだのですか。
  74. 植草被告人 この日の宴席では、ビールと紹興酒を飲んだと思います。
  75. 弁護人3 ビールは、どの程度の量を飲んだのですか。
  76. 植草被告人 はっきり記憶しておりませんが、グラスで5〜6杯飲んだのではないかと思います。
  77. 弁護人3 どのくらいの大きさのグラスですか。
  78. 植草被告人 それもはっきりは覚えておりませんけれども、通常のビールグラスで、高さが10センチ程度のグラスだったと思います。
  79. 弁護人3 紹興酒は、どの程度の量を飲んだのですか。
  80. 植草被告人 それも数えて飲んでいたわけではありませんので、正確なところはわかりませんが、ガラスの少し小さ目のグラスで20〜30杯以上は飲んだと思います。
  81. 弁護人3 紹興酒用のグラスというのは、具体的にはどれくらいの大きさのものですか。
  82. 植草被告人 先ほどいいましたビールのグラスよりは小ぶりで、恐らく高さは5〜6センチで、ちょうどガラスのグラスだったと思います。
  83. 弁護人3 飲み方をお聞きしますが、その1杯をどのくらいのペースで飲むのですか。
  84. 植草被告人 その日の宴席では、途中から一気飲みというような飲み方がかなり行われておりましたので、ペースは相当速かったと思います。
  85. 弁護人3 被告人は、ふだんは毎日お酒を飲むのですか。
  86. 植草被告人 ふだんは、会食などが続けば毎日飲むということがありますが、そういうことがなければ、10日ぐらい飲まない日があるといったこともあります。
  87. 弁護人3 平均すると、大体どのくらいの頻度でお酒を飲むということですか。
  88. 植草被告人 缶ビール1本程度も含めれば、1週間に2〜3回のペースになるかと思います。
  89. 弁護人3 どんな種類のお酒を飲むのですか。
  90. 植草被告人 特に決めて飲んでいるということはありませんが、ビール、焼酎、ワイン、ウィスキー、ブランデー、バーボンを飲むこともあります。いろいろな種類のお酒を飲みます。
  91. 弁護人3 その種類によって違いますけれども、通常どのくらいの量を飲むのですか。
  92. 植草被告人 その場の状況でかなり幅がありますけれども、比較的よく飲むのは焼酎で、焼酎のお湯割りを3杯から5杯程度飲むというのが多いかと思います。
  93. 弁護人3 この日は、ふだんよりも多くのお酒を飲む理由が何かあったのですか。
  94. 植草被告人 この日の宴席は、中華料理のフルコースの料理だったんですけれども、同時にお酒の飲み放題のコースもセットされておりました。ただ、宴席に出席された方の中にお酒を飲まない方が何人もいらっしゃったので、お酒を飲める人がたくさん飲まなければというような話題が、宴会の初めの20分ぐらいのメインの話題でした。そういう事情がありまして、お酒の飲める人はたくさん飲むというような話になりまして、一気飲みといったことが随分行われた、そういう宴会だったという事情があります。
  95. 弁護人3 被告人は、お酒は好きな方なのですか。
  96. 植草被告人 どちらかといえば、好きな方だと思います。
  97. 弁護人3 この日のように大量に飲むことはしばしばあるのですか。
  98. 植草被告人 大量に飲むのはめったにありません。
  99. 弁護人3 被告人は、普通の人に比べて、お酒は強い方と思いますか、弱い方だと思いますか。
  100. 植草被告人 どちらかといえば、強い方だと思います。
  101. 弁護人3 その宴会の出席者の方は、おおむね気心の知れた方々だったのですか。
  102. 植草被告人 はい。この日の宴席は社長が主催した宴席でしたが、社長室と経営企画室という部署の方の集まりで、その部署の方はほとんど私がよく知っている人たちでした。
  103. 弁護人3 次に、既に請求済みの平成18年9月29日付T検察官面前調書の添付図面を示します。  出席者のメンバーと並んでいる位置は、この図面のとおりで間違いないですか。
  104. 植草被告人 私が座っている位置を基準に考えますと、私が座っているテーブルの中に「T」と書いてあるところと「Y」と書いてあるところがありますが、この2人は逆だったのではないかと思います。仮にTさんがYさんの席にいたときに、SさんとTさんがこの位置の状況、それがまた逆なのか、そこははっきりわかりません。YさんがTさんの位置だったというのはわかります。  それから、私が座っていない方のテーブルの席では、私のすぐ隣に「A」という名前と、その隣に「W」とあります。ここはこのとおりだと思います。それ以外の人は、私、はっきりは記憶しておりません。
  105. 弁護人3 一応、今示した書面はこれです。
  106.     

    〔弁護人、裁判長に書面を示す〕

  107. 神坂裁判長 はい。
  108. 弁護人3 この日の宴会の出来事は大体覚えていますか。
  109. 植草被告人 宴会の前半の部分はかなり覚えているんですが、後半は断片的にしか覚えておりません。
  110. 弁護人3 後半の部分は、今は忘れてしまったけれども、事件直後は覚えていたのですか。
  111. 植草被告人 いや、後半については、事件直後から余り覚えていません。
  112. 弁護人3 そのように、お酒を飲んで記憶がなくなることはよくあることなのですか。
  113. 植草被告人 それほど多くはありません。このことがありまして、過去にお酒を飲んで眠ってしまったとか、途中記憶がなくなったということを数えましたら、成人して以降、合わせて15回ぐらいあったかなと思います。
  114. 弁護人3 このときは、どうして記憶がなくなるようなことが生じたのですか。
  115. 植草被告人 過去、お酒を飲んで眠ってしまうとか、記憶が途中でなくなるというのは、非常に疲れているときに一気飲みのような飲み方でお酒を大量に飲んだときに、酔いが回って激しい睡魔が襲うというパターンなんですけれども、この日の宴会のときがやはり同じパターンでした。
  116. 弁護人3 お酒を飲んで記憶がなくなった過去の15回ほどの例で、被告人が変な行動をとったということがありましたか。
  117. 植草被告人 過去、眠ってしまったとか、あるいは記憶がなくなってしまったようなときに、後からどういう状況だったかを確かめていませんけれども、過去、特に変わった行動をとったということはありません。ただ、お酒をたくさん飲むと、少し陽気になって、その後で眠ってしまうというようなことがほとんどです。
  118. 弁護人3 宴会の後半の出来事ですけれども、全く思い出せないのですか。
  119. 植草被告人 この点については、取り調べのときに検事からいろいろと聞かれまして、ゴルフの話題があったのではないかと聞かれたのですが、ゴルフについて何か話をしたかなというおぼろげな記憶といいますか、おぼろげな感覚はあります。
  120. 弁護人3 宴会の最初からの出来事としては、どんなことを覚えているのですか。
  121. 植草被告人 宴会の初めは、先ほど申しましたが、その日の料理が中華のフルコースで、お酒の飲み放題のコースがつけてあって、お酒を飲める人がたくさん飲まなければいけない、こういう話題がかなり長く続いたと思います。それ以外には、そのお酒の話の延長で、常務の方が紹興酒について、中国での紹興酒のいわれといったようなことについて話されたことと、それから、出席していた社員の方のご家庭で間もなく子供が生まれるといったような話がありまして、そんな話をしたことは覚えております。
  122. 弁護人3 逆に、こんなことがあったのかと、後で見たり聞いたりして驚いたことはありましたか。
  123. 植草被告人 これも取り調べのときに検事から言われて驚いたことですが、1つは、その宴席の中で、社長主催のゴルフコンペの話題が出て、その日程まで決めていたことを聞かされて、それは知らなかったので驚きました。もう1つは、宴席の最後に社長があいさつをされたそうなんですが、そのときに私と社長で少し言葉のやりとりがあったそうなんですけれども、それも私は覚えていないので、聞いて驚きました。
  124. 弁護人3 ゴルフコンペについては、何か確認したことがありますか。
  125. 植草被告人 取り調べの段階で検事から私がその日に持っていた手帳を示されて、11月3日に「ゴルフ」という記載があるのを示されました。どうもその宴席の中で「11月3日ゴルフ」と私が記載したようなんですが、11月3日は、私、もともと家族との予定が入っておりました。本来はゴルフを入れるはずがない日にそういう記述があったので、驚きました。
  126. 弁護人3 その家族との予定は、手帳に書いていなかったんですか。
  127. 植草被告人 ええ。それは書いてはおりませんでした。
  128. 弁護人3 顧問会社の社員の方の供述調書によると、中国やアジアの話をしたということなのですが、覚えていませんか。
  129. 植草被告人 先ほどいいましたが、常務の方が紹興酒に関連しまして、中国での紹興酒のいわれといったようなことについて話をされたことは覚えておりますが、それ以外のことは余りよく覚えておりません。
  130. 弁護人3 顧問会社の社員の方の供述調書によると、その宴会の前に政治家と会っていたことから、政治の話になったということなのですが、そのことは覚えていませんか。
  131. 植草被告人 その日の昼に私はある政党の本部に行って仕事をしておりました。そのことをこの宴会に到着して間もないころに話しましたので、その関連で、その政治の話題が多少あったかとは思いますが、詳しいことはよく覚えておりません。
  132. 弁護人3 やはり顧問会社の社員の方の供述調書によると、社長交代に伴う仕事の話をしたとも書かれているんですが、それは覚えていませんか。
  133. 植草被告人 その覚えはありません。
  134. 弁護人3 同じく顧問会社の社員の方の供述調書によると、五反田にある飲食店について、あそこがうまいというような話をしたということなのですが、そのことは覚えていませんか。
  135. 植草被告人 その話題も私は覚えていません。
  136. 弁護人3 顧問会社の社員の方の供述調書によると、前社長のカリスマ性や指導力の話をしたということなのですが、そのことは覚えていませんか。
  137. 植草被告人 その話題も覚えていません。
  138. 弁護人3 顧問会社の社員の方の供述調書によると、被告人が新社長のあいさつの際に、「では、勝者から」といったので、その社員の方が「それはまずいですよ」といって、たしなめたことがあるということが書かれているのですが、覚えていませんか。
  139. 植草被告人 これが先ほど私が申し上げた驚いたことの1つなのですが、そのことも私は覚えておりません。
  140. 弁護人3 その宴会が終わったのは、何時ごろのことなんですか。
  141. 植草被告人 私は、そのころの記憶がないのと、多分時計も確認していないと思いますが、記憶にありません。
  142. 弁護人3 その宴会が終わった前後に記憶として、そのようなことを覚えていますか。
  143. 植草被告人 よく思い出してみたときに、宴会が終わって、その宴会の個室から出るときに、宴会の個室のドア近辺の光景だけ断片的に覚えておりますが、それ以外はほとんど覚えておりません。
  144. 弁護人3 大崎駅までだれと一緒だったかは覚えていますか。
  145. 植草被告人 それも取り調べで聞かれましたが、だれかと一緒だったかどうか、よくは覚えていません。
  146. 弁護人3 顧問会社の社員の方の供述調書によると、宴会が終わった後、その方に「もう1軒、2次会に行きましょう」と誘い、さらに「行こうよ、行こうよ」とシャツのわき腹の部分を引っ張って誘って、その方が断ると、「何だよ、つき合いが悪いな」といったということが書かれているのですが、覚えていますか。
  147. 植草被告人 いや、覚えていません。
  148. 弁護人3 顧問会社の人たちと最終的に別れたのは、どこですか。
  149. 植草被告人 覚えておりません。
  150. 弁護人3 その宴会が終わった後、どこに帰るつもりだったのですか。
  151. 植草被告人 そのときの記憶はないんですけれども、もともとその日の予定としては、自分の事務所に帰る予定でした。
  152. 弁護人3 それは事務所に泊まるという意味なのですか。
  153. 植草被告人 はい、そうです。
  154. 弁護人3 事務所に泊まることは、ふだんから多いのですか。
  155. 植草被告人 仕事が遅くなるときは、かなり多く事務所に泊まっております。
  156. 弁護人3 そうすると、泊まるための施設もあるのですか。
  157. 植草被告人 泊まれるようになっております。
  158. 弁護人3 また1人でさらに飲もうと思っていたわけではないのですか。
  159. 植草被告人 その点は、当時の記憶が私にはありません。
  160. 弁護人3 それだけ酔っ払っていたら、タクシーで帰ることにする人も多いと思うのですが、なぜそうしなかったのですか。
  161. 植草被告人 当時の判断状況は記憶にありません。
  162. 弁護人3 後から考えると、どういった理由が考えられますか。
  163. 植草被告人 後から考えますと、その会社の方たちと大崎駅近辺で何度も飲食をともにしておりますが、皆さん電車で帰られるので、これまでも私は電車で帰っておりました。それから、その会食のありました大崎ニューシティという建物は駅に連結しておりますので、恐らく皆さん何の疑いもなくそのまま駅に向かったんじゃないかと思います。
  164. 弁護人3 ちなみに、その顧問会社は大崎駅の近くに所在しているんですか。
  165. 植草被告人 はい。大崎駅から徒歩で5分ぐらいのところで、目黒川を越えた反対側にあります。
  166. 弁護人3 今挙げた理由以外にさらに何か理由はありませんか。
  167. 植草被告人 あとは、私も細かいことはよくわからないのですが、大崎ニューシティの周辺にはタクシー乗り場がなかったことと、それから、大崎駅近辺の構造が、JR、山手通り、目黒川が立体的に複雑に入り組んでいるので、タクシーの利用が非常に難しいところということが挙げられると思います。
  168. 弁護人3 後に請求予定の大崎駅近辺の地図を示します。  宴会のあった中華料理店は、どこにあるのですか。
  169. 植草被告人 この地図の中ほど上に「大崎ニューシティ」という記載がありますけれども、この建物の中です。
  170. 弁護人3 その建物の大体どの辺にあるか、丸をつけてもらえませんか。
  171. 植草被告人 正確な位置はわかりませんが、恐らく「大崎ニューシティ」という文字の中ほど、「ニュー」と書いてある近辺だと思います。
  172.     

    〔弁護人、地図を裁判所に見せる〕

  173. 弁護人3 大崎ニューシティと大崎駅との間は、どのようにつながっているのですか。
  174. 植草被告人 この地図に「歩道橋」と書いてありますが、この歩道橋が連絡通路になっていて、大崎駅の改札と同じフロアからこの歩道橋に連結しているんですが、これが大崎ニューシティの3階部分に連結していて、3階から直接大崎ニューシティに入る経路と、エスカレーターで2階におりて、2階から大崎ニューシティに入る経路と、2つつながりがあります。
  175. 弁護人3 その中華料理店は2階でしたね。
  176. 植草被告人 はい。
  177. 弁護人3 タクシー乗り場は、どこにあるのですか。
  178. 植草被告人 タクシー乗り場は、大崎駅の大崎ニューシティの反対側におりたところに、JRに並行しまして道路がありますけれども、この道路上にタクシーが何台か並んでいるのを私は見たことがありました。それが恐らくタクシー乗り場ではないかと思います。
  179. 弁護人3 じゃ、その辺に丸をつけて、「タクシーがいるところ」と書いてください。
  180.     

    〔被告人、地図の該当箇所に丸を記入〕

  181. 弁護人3 被告人の事務所は、泉岳寺にありましたね。
  182. 植草被告人 はい。
  183. 弁護人3 タクシーだと、この今の「タクシーがいるところ」という場所から泉岳寺にどのように行くことになるのですか。
  184. 植草被告人 私はここからタクシーを利用したことがないのでわかりませんが、こちら側の道で「タクシーがいるところ」から乗って直進していきますと、JRに阻まれて、ずっと大井町の方まで行ってしまうような状況なので、立体交差とかJRの障害があるために、かなり複雑で遠回りの経路を行かざるを得ないんじゃないかと思います。
  185. 弁護人3 地図を見ると、先ほどいっていた歩道橋の下が山手通りになっているように見えるのですけれども、山手通りにすぐ出ることはできないのですか。
  186. 植草被告人 山手通りは立体交差になっておりまして、直接この駅から山手通りには出られないと思います。
  187. 弁護人3 顧問会社の人たちと別れた後で、顧問会社の人から携帯電話に電話がありませんでしたか。
  188. 植草被告人 それは私は気づいておりません。
  189. 弁護人3 その日の夜は、携帯電話の電源は入っていたのですか。
  190. 植草被告人 はい、入っておりましたが、着信音も振動のないサイレントモードになっておりましたので、気づきませんでした。
  191. 弁護人3 大崎駅で何線の電車に乗ったのですか。
  192. 植草被告人 記憶にはありませんが、恐らく山手線に乗ったのだと思います。
  193. 弁護人3 大崎駅で山手線に乗車した時刻は覚えていますか。
  194. 植草被告人 覚えておりません。
  195. 弁護人3 山手線は、どこでおりたのですか。
  196. 植草被告人 それも覚えておりませんが、恐らく品川駅でおりたのではないかと思います。
  197. 弁護人3 品川駅では、何線に乗りかえるのですか。
  198. 植草被告人 京浜急行です。
  199. 弁護人3 被告人は、京浜急行の品川駅はどの程度の頻度で利用するのですか。
  200. 植草被告人 正確な数字はわかりませんが、月に6〜7回程度あったのではないかと思います。
  201. 弁護人3 品川駅でJRから京浜急行に乗りかえるときには、通常、駅のどこを通って乗りかえることになるのですか。
  202. 植草被告人 JR品川駅の構内に京浜急行への連絡改札がありますので、そこを通ることが多いです。
  203. 弁護人3 その改札を通るためには、京浜急行の切符かパスネットを持っていなければならないはずですが、どちらを持っていたのですか。
  204. 植草被告人 それも覚えておりませんが、恐らくパスネットを持っていたのだと思います。
  205. 弁護人3 その連絡改札を通過しますと、京浜急行のホームに出ますけれども、連絡改札を通過したところのホームは、どちら方面の電車が来るホームなんですか。
  206. 植草被告人 横浜方面に向かう電車が来ると思います。
  207. 弁護人3 では、泉岳寺方面に行くホームには、普通はどのような経路で移動しているのですか。
  208. 植草被告人 改札を入ると、右手の方に下り階段がありまして、その階段をおりて、その後、反対側の上り階段を上ってホームに出るのが通常です。
  209. 弁護人3 被告人は、連絡改札を通った後、横浜方面行きホームで、あったことについて何か覚えていることはありますか。
  210. 植草被告人 ほとんど覚えていないんですが、改札を通るときに、目の前のホームに電車がとまっていて、あ、電車がいるというような光景だけ断片的に覚えています。
  211. 弁護人3 泉岳寺方面に行く上り電車ではなく、横浜方面に行く下り電車に乗った理由は何ですか。
  212. 植草被告人 電車に乗るときに、あ、下りかな、逆方向かなと思ったのですが、まあいいかと思って、頭が働かずにそのまま乗ってしまいました。
  213. 弁護人3 警察の調書で、「その電車に乗り込んだのは、連絡通路を渡って上りホームに行くのが面倒に思えたから、とりあえずその電車に乗って、どこかの駅で乗りかえればいいと考えていました。どこかの駅で、階段を上りおりしなくても上り電車に乗りかえることができれば、その方が楽だと考えていました」と書かれているのですけれども、これはその当時、実際にそのように考えて行動したということなのですか。
  214. 植草被告人 いえ、そうではありません。
  215. 弁護人3 どうしてこのような答えになっているのですか。
  216. 植草被告人 私の当時の記憶では、あ、逆方向かな、まあいいかということなのですが、そのことを後から冷静に論理的に説明しようとすると、こういうことになるかなということを説明しまして、その説明が書かれたものです。
  217. 弁護人3 泉岳寺方面行きの電車にやっぱり乗ろうと思って、乗っちゃった電車をおりようということは考えなかったのですか。
  218. 植草被告人 一度、やっぱりおりようかと思って、おりようとしました。
  219. 弁護人3 どうしておりなかったのですか。
  220. 植草被告人 おりようかと思った瞬間に何人か乗ってきまして、そのままドアが閉まってしまって、そのままになってしまいました。
  221. 弁護人3 京浜急行は快速特急、特急、急行、普通とあるのですけれども、乗ったときにどの種類の電車に乗ったかわかりますか。
  222. 植草被告人 わかりません。
  223. 弁護人3 横浜方面行きの電車に乗って、どこで乗りかえようということは考えていたのですか。
  224. 植草被告人 具体的に考えておりません。
  225. 弁護人3 同じように反対方面に乗って、乗りかえやすい駅で乗りかえた経験はあるのですか。
  226. 植草被告人 一度だけあります。
  227. 弁護人3 京浜急行以外で、そのようなことをしたことはありますか。
  228. 植草被告人 はい、あります。
  229. 弁護人3 例えばどういう場合ですか。
  230. 植草被告人 例えば地下鉄の外苑前ですが、丸ノ内線の新宿方面に行くようなときに、本来であれば赤坂見附で乗りかえますが、階が違うということがあるので、銀座線で溜池山王まで行って、反対側の電車に乗って、その後、丸ノ内線で新宿に行くといったことはあります。
  231. 弁護人3 事件当日、京浜急行で電車の何両目に乗ったという認識ですか。
  232. 植草被告人 それはわかりません。
  233. 弁護人3 その車両の前、真ん中、後ろ、どのドアから乗ったという認識ですか。
  234. 植草被告人 それも覚えていません。
  235. 弁護人3 ホームの乗車位置に並んで待って、その電車に乗ったという認識はありますか。
  236. 植草被告人 ありません。覚えていません。
  237. 弁護人3 それはそうじゃないという意味ではなくて、記憶がないという意味ですか。
  238. 植草被告人 そうです。
  239. 弁護人3 かわります。
  240. 弁護人4 それでは、弁護人の「弁護人4」の方からお聞きします。  今、電車に乗り込んで、一度出ようとしたけれども、押し戻されたというようなお話でしたが、押し戻されて電車の中に入った時点で、酔いの程度はどの程度でしたか。
  241. 植草被告人 酔って記憶がなくなるほどの状況で、ぐったりした状況だったと思います。
  242. 弁護人4 先ほど、宴席の後半から記憶がなくなって、同じような状態だったというように証言されたと思いますが、それと同じ程度だったということですか。
  243. 植草被告人 そうです。それよりもう少しそれが強まっていたように思います。
  244. 弁護人4 それは移動したからですか。
  245. 植草被告人 理由はわかりません。
  246. 弁護人4 そのとき思考状態の方はどうでしたか。
  247. 植草被告人 記憶がないというような状況で、ぐったりしていたという状況だったと思います。
  248. 弁護人4 あなたは、電車に乗り込む際に何を持っていましたか。
  249. 植草被告人 傘とバッグを持っていたと思います。
  250. 弁護人4 バッグには何を入れていましたか。
  251. 植草被告人 書類のたぐいのものが多かったと思います。
  252. 弁護人4 そのバッグはどのくらいの重さでしたか。
  253. 植草被告人 それは後に重さをはかってみたのですけれども、そのときの状況と全く同じではありませんが、バッグを含めて大体4キロぐらいの重さになったと思います。
  254. 弁護人4 あなたは、電車が出発した直後、動いている電車の中でつり革でつかんでいたという記憶はありますか。
  255. 植草被告人 そこははっきりは覚えておりません。
  256. 弁護人4 後から考えると、当時の状況からして、バランスはどうでしたか。
  257. 植草被告人 非常に疲れてぐったりしておりまして、酔っていた。それから、4キロも重さのあるバッグを持っていましたので、何かつり革のようなものにつかまらなければ、バランスがとれないような状況にあったと思います。
  258. 弁護人4 そのような状態は、いつごろまで続いていましたか。
  259. 植草被告人 女性がやや大き目な声を上げて、それに気づくときまでです。
  260. 弁護人4 そのことは後に詳しく聞きますが、まず、あなたは当時どのような服装でしたか。
  261. 植草被告人 スーツにネクタイ姿でした。
  262. 弁護人4 スーツは何色でしたか。
  263. 植草被告人 グレーのスーツです。
  264. 弁護人4 ネクタイは何色でしたか。
  265. 植草被告人 赤色系統のネクタイでした。
  266. 弁護人4 眼鏡はかけていましたか。
  267. 植草被告人 はい、かけていました。
  268. 弁護人4 どのような眼鏡でしたか。
  269. 植草被告人 青っぽいセルロイドの眼鏡です。
  270. 弁護人4 さて、先ほど、一度おりようとしたけれども、何人か乗り込んできたので、乗ったまま、その後、電車が発車するということでしたが、電車にそのまま押し戻されて再度乗り込んだときに、どの辺まで行ったという記憶ですか。
  271. 植草被告人 あいていたドアから見ると、反対側のドアに近い方だったと思います。
  272. 弁護人4 結局、先ほど述べたように記憶がはっきりしないこともあって、その辺は、そのあたりだということになってしまうということですか。
  273. 植草被告人 そうです。
  274. 弁護人4 それでは、電車が出発した後のことを聞きますが、やがてどのようなことが起こりましたか。
  275. 植草被告人 女性のやや大き目の声がしました。
  276. 弁護人4 あなたが気がついたのは何という言葉でしたか。
  277. 植草被告人 私は、やや大き目の声に気づいて目をあけたんですが、私の耳に残っている言葉は「子供がいるのに」という言葉です。
  278. 弁護人4 まず、目をあけたのは、電車が出発してからどれくらいのころでしたか。
  279. 植草被告人 その時間はわかりませんが、そういう騒ぎがありまして、蒲田駅に着くまでの時間が非常に長かったんで、品川駅を出てからそれほど時間がたっていないころだったのだと思います。
  280. 弁護人4 声で目を覚ましたということですが、意識の方はどうなりましたか。
  281. 植草被告人 非常にびっくりしましたので、意識も急に覚めたような状況になりました。
  282. 弁護人4 「再現実験及びビデオ撮影報告書その2」の図面1の写しを示したいのですが。
  283. 神坂裁判長 図面1ですか。どうぞ。
  284. 弁護人4 この四隅の長方形が座席で、中央の長方形の線上の小さい長方形のピンクの印をつり革と想定しております。あなたも弁護人から、9月13日の夜に乗っていた京浜急行の車両の図面だと説明は受けていますね。
  285. 植草被告人 はい。
  286. 弁護人4 まず、電車の進行方向を決めるために、「図面1」という文字を上の方にして、左方向を進行方向として、その方向に矢印を記入して、「進行方向」と書いていただけますか。
  287.     

    〔被告人、図面に記入〕

  288. 弁護人4 先ほど、女性の声がして、目を覚まして意識がはっきりしたということでしたが、その時点であなたはどこに立っていましたか。図面に「○私」と書いていただけますか。
  289.     

    〔被告人、図面に記入〕

  290. 弁護人4 その場所で、進行方向に向かってどちらを向いていたか、まず言葉でいってもらえますか。
  291. 植草被告人 進行方向左手のドアの方向に向いていました。
  292. 弁護人4 その方向を矢印で記入していただけますか。先ほどの○につないで矢印で書いてください。
  293.     

    〔被告人、図面に記入〕

  294. 弁護人4 先ほど、あなたは傘を持っていたということですが、傘をどのようにして持っていましたか。――済みません、一遍ここで裁判所に示します。
  295.     

    〔記入済みの図面を裁判所に示す〕

  296. 弁護人4 今、傘の話が途中になりましたが、持っていた傘をどのようにして持っていましたか。
  297. 植草被告人 傘は、傘の取っ手部分の上側を手で握って、杖のように、上から押さえつけるような形で持っていたと思います。
  298. 弁護人4 右手か左手かは覚えていますか。
  299. 植草被告人 左手だったと思います。
  300. 弁護人4 あなたは、バッグをどのようして持っていましたか。
  301. 植草被告人 バッグは、右肩から提げていたと思います。
  302. 弁護人4 そうしますと、右手はあいているんですが、右手はどうしていましたか。
  303. 植草被告人 右手はつり革をつかんでいたと思います。
  304. 弁護人4 その時点で目を覚まして社内を見たときに、どの程度込んでいる状況でしたか。
  305. 植草被告人 満員電車という状況ではありませんが、動けば人と触れ合うかというような込みぐあいだったと思います。
  306. 弁護人4 さて、女性の声が聞こえて目を覚ますということでしたが、目をあけると、どのような光景が見えましたか。
  307. 植草被告人 私の前にいたと思われる女性が、これは私の感覚なんですが、左回りに後ろを振り返るように、私の右前方に移動しているのを見ました。
  308. 弁護人4 女性を見たということですが、その女性は外見上、どのような女性でしたか。
  309. 植草被告人 若い女性だったと思います。
  310. 弁護人4 制服を着ているかどうかという区別はつきましたか。
  311. 植草被告人 そこははっきりはわかりません。
  312. 弁護人4 その女性はどこらあたりまで移動しましたか。図面に「○女」と記入していただけますか。
  313. 植草被告人 動き終わったときですか。
  314. 弁護人4 はい。動き終わった後、どこまで移動しましたか。
  315.      

    〔被告人、図面に記入〕

  316. 弁護人4 どちらを向いていましたか。言葉でまず説明してください。
  317. 植草被告人 電車の進行方向に向かっていいますと、その女性の右斜め後ろを見るような感じでした。
  318. 弁護人4 そちらを図面で示していただけますか。
  319. 植草被告人 矢印ですか。
  320. 弁護人4 図面に矢印で示していただけますか。先ほどと同じように、○につなげて書いてください。
  321.     

    〔被告人、図面に記入〕

  322. 弁護人4 女性が動き終わった後の状態で、その女性とあなたはどれくらい離れていましたか。
  323. 植草被告人 大体70〜80センチだったと思います。
  324. 神坂裁判長 済みません、今までのところを見せてもらえますか。
  325.     

    〔記入済みの図面を裁判所に示す〕

  326. 弁護人4 平成18年12月6日に行われた弁護側冒頭陳述では、あなたと動き終わった後の女性の距離は1〜1.5メートルだったのですが、どちらが正しいのですか。
  327. 植草被告人 1〜1.5メートルというのは、私の頭の中の感覚での距離だったんですけれども、実際に当時の状況を私の記憶に基づいて再現してビデオ撮影しましたが、そのときに、私の記憶に基づいて実際に再現して、メジャーを使って距離をはかりましたら、70〜80センチということで、こちらが正確な距離です。1〜1.5メートルというのは私の頭の中にあった距離感覚で、違ってしまったということです。
  328. 弁護人4 ところで、その女性は今、図に示した地点でどちらを見ていましたか。どのあたりを見ていましたか。
  329. 植草被告人 その女性が動く前にいたと思われる地点の地上1メートルから1.2メートルぐらいのところを、戸惑ったように見ているというのを私は見ています。
  330. 弁護人4 その状況で、あなたはどのようなことが起きたのだと想像しましたか。
  331. 植草被告人 私は、痴漢騒ぎが起きたのではないかと思いました。
  332. 弁護人4 なぜそのように思ったのですか。
  333. 植草被告人 女性がやや大きな声を出したからです。
  334. 弁護人4 そのような状況で、あなたはどのような行動をとったんですか。
  335. 植草被告人 私は、絶対にかかわり合いになりたくないと思いまして、向きを少し右側に変えて、目をつぶって下を向いておりました、
  336. 弁護人4 あなたはその前後に場所を移動しましたか、しませんでしたか。
  337. 植草被告人 体の向きは、進行方向左手のドアの方向から進行方向に変えましたけれども、場所はほとんど移動していないと思います。
  338. 弁護人4 その向きを変えた後、左手はどのようにしていましたか。
  339. 植草被告人 左手は、恐らく同じように傘を持っていたと思います。
  340. 弁護人4 向きを変えた後、右手はどのようにしていましたか。
  341. 植草被告人 右手はつり革につかまっていたと思います。
  342. 弁護人4 そのように向きを変えた後に女性はどうしたかおわかりですか。
  343. 植草被告人 私は、その声がして目をあけて、その女性を目撃しましたけれども、その後すぐに向きを変えて目をつぶってしまいましたので、その後の女性の状況はわかりません。
  344. 弁護人4 あなたがそうしていると、その後どのようなことが起こりましたか。
  345. 植草被告人 かなり時間がたってから、突然だれかに私の体をつかまれました。
  346. 弁護人4 何人にそうされたかわかりましたか。
  347. 植草弁護人 はっきりわかりませんが、私の感覚では2人だったように思います。
  348. 弁護人4 それはあなたが向きを変えてからどのくらいたってからですか。
  349. 植草被告人 時間は正確にわかりませんけれども、30秒から1分ぐらいはたっていたと思います。
  350. 弁護人4 あなたはだれかにつかまれて、その人たちに何かいいましたか。
  351. 植草被告人 はい。
  352. 弁護人4 何といいましたか。
  353. 植草被告人 「何ですか。ちょっと待ってくださいよ。何もしていませんよ」ということをいいました。
  354. 弁護人4 どのような声で言葉を発しましたか。
  355. 植草被告人 声帯は使わずに、つぶやくような感じでいいました。
  356. 弁護人4 なかなかわかりづらいところもあるんですが、声は小さかったんですか、大きかったんですか。
  357. 植草被告人 非常に小さかったと思います。
  358. 弁護人4 人からつかまれているのになぜ小声でしか否定しなかったんですか。
  359. 植草被告人 私は人から非常によく知られている身で、また前に事件に巻き込まれたということもありましたので、この場では絶対に騒ぎにしたくないと思って、大きな声を出しませんでした。
  360. 弁護人4 前の事件にも巻き込まれた経験から、その場で騒ぎになるとどうなると思ったんですか。
  361. 植草被告人 私だということがわかれば、大騒ぎになると思いました。
  362. 弁護人4 大騒ぎになるとどうなると思ったんですか。
  363. 植草被告人 当時の気持ちとしては、その場で犯人に仕立て上げられてしまうと思いました。
  364. 弁護人4 あなたはそのようにつかまれている間、どのような体勢でしたか。
  365. 植草被告人 つり革をつかんで、目をつぶって顔を下に向けた状態でいました。
  366. 弁護人4 基本的には体勢はほとんど同じだったということですか。
  367. 植草被告人 はい。ずっとその姿勢でした。
  368. 弁護人4 いつごろまでそのような体勢でしたか。
  369. 植草被告人 電車が蒲田に着くまで基本的に同じ姿勢だったと思います。
  370. 弁護人4 その間、目を閉じていたということなので、女性の状況はよくわからないということですか。
  371. 植草被告人 そうです。
  372. 弁護人4 目を閉じていましたが、耳は聞こえたと思うんですけれども、泣いている声等は聞こえましたか。
  373. 植草被告人 いや、全く聞こえませんでした。
  374. 弁護人4 あなたは、次の停車駅に到着したらどうするつもりでしたか。
  375. 植草被告人 到着したら、しかるべき場所でその女性に事情を聞いて、誤解を解かなければならないと思っておりました。
  376. 弁護人4 あなたをつかまえた男たち、人たちは、電車が次の駅に停車するまでの間、あなたに何か言いましたか。
  377. 植草被告人 電車が駅に到着する直前ぐらいのときに「逃げるなよ」といったような気もします。
  378. 弁護人4 それに対して、あなたは何かいい返しましたか。
  379. 植草被告人 小さな声で「そりゃ逃げませんよ」というふうにいったと思います。
  380. 弁護人4 あなたは停車駅に到着するまでの間、握っていたつり革を握り返して、別のつり革を握ったということはありましたか。
  381. 植草被告人 その点はよく覚えておりません。
  382. 弁護人4 あなたのつり革を握っている手が、他人の手と触れたということはありましたか。
  383. 植草被告人 それも私は記憶はしておりません。
  384. 弁護人4 あなたはその女性に向かって、手で謝るような動作をしましたか。
  385. 植草被告人 そういう動作はしておりません。
  386. 弁護人4 誤解される可能性があるとしたら、どのような動作だと思いますか。
  387. 植草被告人 手でつり革につかまってぐったりしていましたので、それで顔を下に向けて目をつぶっていたので、ひょっとすると、それが謝っているような姿勢に見えたのかもしれないなとは思います。
  388. 弁護人4 甲43の写真を示したいと思います。  こちらを。
  389. 検察官1 「被害者の再現」と書いてあるものですね。
  390. 弁護人4 次の停車駅に到着するまでの間、写真中央のこちら側を向いている女性のような状況で、あなたが男性にネクタイをつかまれたことはありましたか。
  391. 植草被告人 そういう状況はないと思います。
  392. 弁護人4 蒲田駅に到着すると、進行方向どちら側のドアが開きましたか。
  393. 植草被告人 進行方向左側のドアが開きました。
  394. 弁護人4 蒲田駅に到着する前の間、あなたは、到着後に女性と話をして誤解を解かなければならないと思っていたとのことですが、到着後どうなりましたか。
  395. 植草被告人 到着後、私をつかまえた人に押さえつけられる形で事務室に連れていかれました。
  396. 弁護人4 そのために結局あなたは、誤解を解こうとしてその女性と話すことはできなかったということですか。
  397. 植草被告人 はい、できませんでした。
  398. 弁護人4 以上です。
  399. 弁護人1 かわります。  弁護人の「弁護人1」から伺います。  そのとき車両をおりたときの周囲の人たちの様子は、どのようでしたか。
  400. 植草被告人 私はよく見ておりませんが、雰囲気としては、痴漢騒ぎにみんな注目しているような状況だったと思います。
  401. 弁護人1 車両の中では、駅に着いたら、その問題の女性と話がしたいと思っていたという説明でしたけれども、実際に駅に着いてみたら、女性と話ができたのでしょうか。
  402. 植草被告人 いや、できませんでした。
  403. 弁護人1 車両をおりてから、押さえつけられたことに対して、あなたは肉体的に抵抗しましたか。
  404. 植草被告人 反射的に何か抵抗するような状況があったかもしれませんが、それほど大きな抵抗はしていなかったと思います。
  405. 弁護人1 ネクタイを握っている手を振りほどこうとしたようなことを覚えていますか。
  406. 植草被告人 反射的に何か対応をとったかもしれませんが、大きく抵抗するような状況ではなかったと思います。
  407. 弁護人1 あなたを取り押さえていた人の1人が、あなたのネクタイを握っていたというようにいわれていますが、ネクタイが首に絞まって苦しかったような記憶がありますか。
  408. 植草被告人 そういう記憶はありません。
  409. 弁護人1 ホームにおりてから以降、あなたは、あなたを取り押さえていた人たちから何かをいわれた覚えがありますか。
  410. 植草被告人 ないと思います。
  411. 弁護人1 逆に、あなたがその人たちに対して何かをいった覚えがありますか。
  412. 植草被告人 はい、あります。
  413. 弁護人1 どのようなことをいいましたか。
  414. 植草被告人 「とにかく女性と話をさせてくれ」ということをいいました。
  415. 弁護人1 「とにかく女性と話をさせてくれ」という言葉は1度だけいったのですか。それとも、複数回いったのですか。
  416. 植草被告人 何度もいっていると思います。
  417. 弁護人1 そのあなたの要求に対して、あなたを取り押さえていた人たちはどのように応じましたか。
  418. 植草被告人 何も返事をせずに強引に事務室の方に連れていきました。
  419. 弁護人1 ホームを移動して駅の事務室に着くまでの間、駅員がやってきたことがありましたか。
  420. 植草被告人 私は駅員には気づいていません。
  421. 弁護人1 おりたホームから駅の事務室へ行くまでの経路がどのようなものであったか覚えておりますか。
  422. 植草被告人 それはよく覚えておりません。
  423. 弁護人1 この移動の間、あなたは自分が痴漢に間違えられていたということは理解していたのですか。
  424. 植草被告人 はい、理解しておりました。
  425. 弁護人1 その移動中に、あなたを取り押さえている人たちに対して、「間違いだ」とか「やっていない」とか、そのようなことをいった覚えはありますか。
  426. 植草被告人 ありません。
  427. 弁護人1 なぜそのようなことをいわなかったのですか。
  428. 植草被告人 とにかくその女性と話をすることが先決だと考えていました。
  429. 弁護人1 ホームを移動している最中に、その問題の女性の姿を見かけたことがありましたか。
  430. 植草被告人 駅の事務室に入る前後に、私の右後方にその高校生が歩いているのを発見しました。
  431. 弁護人1 それまでは、車両をおりてからその女性に対しては気がつかなかったんですか。
  432. 植草被告人 ええ、わかりませんでした。
  433. 弁護人1 その女性が駅の事務室の中に入ってきたかどうか覚えていますか。
  434. 植草被告人 はっきりはわかりません。少なくとも私が入ったスペースには入ってきませんでした。
  435. 弁護人1 あなたが駅の事務室の中にいるときに、その女性の話し声とか泣き声とかが聞こえた覚えがありますか。
  436. 植草被告人 それは全くありませんでした。
  437. 弁護人1 では、駅の事務室に入って、あなたに対応した駅員から、その女性がどのようなことを訴えているのか聞いた覚えがありますか。
  438. 植草被告人 いえ、そういうことは全くありませんでした。
  439. 弁護人1 その時点で、あなたは痴漢に間違えられていることを理解しておりましたね。
  440. 植草被告人 はい。
  441. 弁護人1 駅員に対して何をいいましたか。
  442. 植草被告人 「とにかくその女性と話をさせてくれ」といったと思います。
  443. 弁護人1 なぜ女性と話をさせてもらいたかったんですか。
  444. 植草被告人 私は痴漢をしたという認識は全くありませんでしたけれども、その女性が声を出すまでは眠ったような状況でおりましたので、何があったかわからなかったので、まずその女性に何をいっているのかを聞いて、その上で誤解を解くことをしなければいけないと思っていました。
  445. 弁護人1 あなたはそこでも「とにかく女性と話をさせてくれ」と要求したわけですが、それに対して、駅員はどのような対応でしたか。
  446. 植草被告人 私が事務室に入って、入ってきた側に駅員がおりまして、その人をどけて、その女性がどこにいるかわからないんですが、女性のところに行こうとしたんですが、その駅員が私を阻止したためにもみ合いになりました。
  447. 弁護人1 そのもみ合いになる前に、「話をさせてくれ」という要求をいったわけですけれども、それに対して、駅員は何か答えたんですか。
  448. 植草被告人 だめだといいました。
  449. 弁護人1 それは女性とは話をさせないという意味にとらえましたか。
  450. 植草被告人 はい。
  451. 弁護人1 駅員ともみ合った状況について具体的に伺いたいんですが、その駅員とあなたはどのような体勢になったんですか。
  452. 植草被告人 私がその駅員に対して、「とにかく女性と話をさせてくれ」ということで前に進もうとしましたら、両手を上げて行く手を拒むような状況でしたので、私はその駅員を払いのけて前に進もうとしたんですけれども、それを力ずくで阻止されたんで、いわゆる組み合うような形でもみ合いになりました。
  453. 弁護人1 そのときのお互いの上半身の接着状況は、どの程度だったんですか。
  454. 植草被告人 ちょうど相撲の取り組みのような形で、密着してもみ合うような形になりました。
  455. 弁護人1 駅員の体格はどのようなものでしたか。
  456. 植草被告人 駅員は私よりも少し背が高く、また非常にしっかり、大きな体格をしておりました。がっしりとした体格をされていました。
  457. 弁護人1 そのような体格の駅員から阻止されて、あなたはその女性と話がしたいという気持ちがあったんでしょうけれども、その時点ではどのように思いましたか。
  458. 植草被告人 私もとにかく女性と話をして誤解を解かなければいけないと思って必死でしたけれども、力ずくで阻止されたので、このままいて警察が来たら、私が犯人にされてしまうと思いました。
  459. 弁護人1 あなたは意見陳述書に、自分のネクタイでみずからの首を絞めたと書いているんですけれども、なぜそのようなことをしたんですか。
  460. 植草被告人 このまま放置すれば、私が犯人に仕立て上げられてしまって、悲惨なことが起こると思いました。以前そのようなことがあって、私だけでなく、家族も非常に苦しみましたので、この二の舞だけは絶対したくないと思って、それを防ぐには、この場で自分が命を絶つしかないととっさに考えました。
  461. 弁護人1 あなたは「その女性と話をしたいんだ」と一生懸命言葉でいい、行動を起こしたけれども、それができなかった。そのことによってそういう気持ちに陥ったのですか。
  462. 植草被告人 そうです。とにかく女性と話をさせてくれということを強く訴えましたけれども、力ずくで阻止されましたので、そうなると、自動的に私が犯人に仕立て上げられると思い、とっさの判断で、それを遮断するにはこうするしかない、そういうふうに考えました。
  463. 弁護人1 だけども、駅員からネクタイを取り上げられましたね。
  464. 植草被告人 はい。
  465. 弁護人1 その後あなたはどうしましたか。
  466. 植草被告人 その考えが阻止されましたので、もう一度とにかく女性と話をしなければいけないと思い、駅員にもう一度そのようにいいました。
  467. 弁護人1 これに対して、その駅員はどのような対応をしましたか。
  468. 植草被告人 「話をさせることはできない。それはすべて警察が来てからだ。私に何をいってもむだだ」といっておりました。私は力ずくでその駅員を払いのけて、女性と話をしようとしましたけれども、またもみ合いになりまして、阻止されました。
  469. 弁護人1 そのとき、またもみ合いになったときの上半身の接触状況は、どのようなものでしたか。
  470. 植草被告人 やはりまた組み合いになりましたので、密着してこすり合うような状況だったと思います。
  471. 弁護人1 最初にもみ合ったときと2回目にもみ合ったときでは、どちらの方が激しかったんですか。
  472. 植草被告人 どちらも同じように激しかったです。
  473. 弁護人1 あなたの口からその駅員に対して、「間違いだ」とか「やっていない」とか、そのようなことをいったことはないですか。
  474. 植草被告人 それはいっていないと思います。
  475. 弁護人1 なぜそのようなことをいわなかったんですか。
  476. 植草被告人 先ほどもいいましたけれども、私はその騒ぎが起こるまでのことが全くわからなかった。私としては痴漢をしたという認識は全くありませんけれども、何があったのかとにかく聞かないとわからない。その上で誤解を解かなければいけない。駅員は私に「何をいっても意味がない」というようなことをいっておりましたので、その人に何をいっても関係ないなんだと。
  477. 弁護人1 このような行動を起こした目的は、先ほどからの説明によると、その女性と話をさせてもらいたいということに基づいたことになるんですが、そのほかに、逃げていく、そこから逃げ出すというようなことを考えたことはありましたか。
  478. 植草被告人 そういうことは全く考えておりません。
  479. 弁護人1 あなた自身は世間に顔も知れているし、既にホームでも騒ぎになって、皆さんから注目を浴びているようだったという説明があったんだけれども、逃げるなんていう気持ちは全く思い浮かばなかったんですか。
  480. 植草被告人 そういう考えは全くありませんが、ただ、電車の中とかでは騒ぎにはしたくないと思い、しかるべき場所できちっと話をしようと思いました。
  481. 弁護人1 その後、制服の警察官……。
  482. 神坂裁判長 ちょっと。弁護人の尋問はこの後まだ続きますよね。あとどのくらいですか。尋問事項としては、あとは警察官の方が来られた状況ということで。
  483. 弁護人1 それから、取り調べ状況も入ってきますね。
  484. 神坂裁判長 取り調べ状況は必要なものですか。ギャップがあるわけではないから、必要なんですか。
  485. 弁護人1 ただ、既にこの公判で証言されている警察官から少し話が出ておりまして、それから、警察署に行ってから酒酔いの程度の検査をしておりますので、その辺までのことで質問を。
  486. 神坂裁判長 尋問事項としては、その辺で……。
  487. 弁護人1 それと、再現ビデオの撮影のときの状況を簡単に。
  488. 神坂裁判長 ここで一たん休憩したいと思うんですけれども、時間としてはあとどのくらいかかりますか。
  489. 弁護人1 私のところであと30分ぐらいは。
  490. 検察官1 それで弁護人の方は一応終わりということですか。
  491. 弁護人1 ごめんなさい。私と、あと撮影のときの状況があるので、それが20分ぐらいです。
  492. 弁護人2 あと、若干補充があります。
  493. 神坂裁判長 補充って、反対尋問が終わっていないのに何で補充があるんですか。>  尋問事項は、要するに3点ぐらいでしたよね。1点あたり大体20分ぐらいで、あと1時間ぐらいで終わるというふうに聞いてよろしいですかね。
  494. 弁護人1 そうですね。1時間前後ぐらいで。
  495. 神坂裁判長 1時間で終わるということでよろしいですね。  予定していた時間より、あるいは若干出るとは思うんですけれども、前にもいったと思うんですけれども、検察官はどうされますか。
  496. 検察官1 申しわけないんですが、次回まとめてやらせていただきたいと思います。
  497. 神坂裁判長 本日は、所定時間内に終わらせていただくことで、弁護人の主尋問までということにいたします。  では、3時15分から再開いたします。
  498. 休  憩  後 〔被告人質問の続き〕

  499. 神坂裁判長 では、弁護人の方から引き続きどうぞ。
  500. 弁護人1 先ほどは駅の事務室に警察官が来たというところまで聞いておりますので、その続きをお伺いします。  駅の事務室に入ってきた警察官は何人いましたか。
  501. 植草被告人 1人だと思います。
  502. 弁護人1 その警察官から、あなたは何をしたのですかとか、何があったのですか、そのような質問を受けた覚えがありますか。
  503. 植草被告人 そういうことは聞かれておりません。
  504. 弁護人1 では、その警察官から、女性が具体的に訴えている以外の内容について説明を受けましたか。
  505. 植草被告人 受けておりません。
  506. 弁護人1 あなたの方から、その警察官に対して、電車の中で女性に不快感を与えるようなことをしましたと、そのような説明をした覚えがありますか。
  507. 植草被告人 そのような説明はしておりません。
  508. 弁護人1 そのようなことを説明してないということは断言できるんですか。
  509. 植草被告人 はい、断言できます。
  510. 弁護人1 それはなぜですか。
  511. 植草被告人 そのことははっきり覚えているからです。
  512. 弁護人1 警察官が来る前は、駅員ともみ合っていますけれども、警察官が来てからは、そのようなことはなかったんですか。
  513. 植草被告人 警察官とはもみ合っておりません。
  514. 弁護人1 警察官が来てからのあなたの精神状態はどのようなものだったか、説明できますか。
  515. 植草被告人 非常に緊張感が高まっていました。
  516. 弁護人1 その警察官から何か質問を受けたという覚えがありますか。
  517. 植草被告人 はい、あります。
  518. 弁護人1 どのようなことを質問されましたか。
  519. 植草被告人 名前と職業を聞かれたと思います。
  520. 弁護人1 あなたの身分を証明するものとして、何かを警察官に示したことがありましたか。
  521. 植草被告人 運転免許証を示したと思います。
  522. 弁護人1 その警察官があなたに対応している最中に、別の人がそこに登場したことがありましたか。
  523. 植草被告人 はい。
  524. 弁護人1 それはどのような状況だったか、説明してもらえますか。
  525. 植草被告人 別の男性が1人来まして、その警官のところに来たのか、その警官が私のそばからちょっと離れたのかははっきりしないのですが、その警官に耳打ちするのを私は見ました。
  526. 弁護人1 どのような話だったかは、あなたにはわからなかったですか。
  527. 植草被告人 わからないんですが、恐らく私がその事務室内で、ネクタイを使って首を絞めたということを耳打ちしているんだと推測しました。
  528. 弁護人1 駅の事務室から今度は蒲田警察署に移るのですが、警察署に着いてから何がありましたか。
  529. 植草被告人 警察署に着いて、何人もの人に囲まれて取り調べられるような状況がありました。
  530. 弁護人1 弁解録取書というものが作成されたことを覚えていますか。
  531. 植草被告人 はい、覚えています。
  532. 弁護人1 そのとき、自分がどのようなことで警察に連れてこられたのか、それを警察官から説明を受けた覚えがありますか。
  533. 植草被告人 はい、痴漢の容疑で来ているということは聞いたと思います。
  534. 弁護人1 それに対して、あなたはどのような弁解を述べましたか。
  535. 植草被告人 私は、やったという認識はない、やった覚えはないということをいいました。
  536. 弁護人1 そのようなあなたの弁解は、実際に書類にはどのように記載されたかということは覚えていますか。
  537. 植草被告人 はい、やったことは覚えていないというように書かれたと思います。
  538. 弁護人1 あなたが蒲田駅の駅の事務室で会った警察官は、蒲田警察署に着いてからあなたと話をしたことがありましたか。
  539. 植草被告人 ないと思います。
  540. 弁護人1 弁解録取書が作成される際に、今の駅の事務室に来た警察官とのやりとりの内容を聞かれたことがありましたか。
  541. 植草被告人 全く聞かれておりません。
  542. 弁護人1 後に請求しております酒酔い酒気帯び鑑識カードを示して説明を求めたいと思います。
  543. 検察官1 検察官は特に異議ございません。 
  544. 弁護人1 これは平成18年9月13日に作成された酒酔い酒気帯び鑑識カードというもののようですが、これは覚えていますか。
  545. 植草被告人 はい。
  546. 弁護人1 このカードの枠内のところに手書きで「0.47ミリグラム・パー・リットルの検知について認めます。」という手書きの記載があるのですが、これはあなたの字ですか。
  547. 植草被告人 これは私の字ではないと思います。
  548. 弁護人1 このような記載がなされたいきさつは覚えていますか。
  549. 植草被告人 はい、覚えております。
  550. 弁護人1 どのようないきさつがあったのですか。
  551. 植草被告人 このカードに指で捺印しろということをいわれたのですが、0.47という数値は、私の目の前で機械から出てきたテープでしたので、異論はなかったのですが、この紙に私が同意できないことが書かれていたので、0.47ということについてだけ認めるということを書いてくれれば押しますということをいって、書いてもらったものです。
  552. 弁護人1 その記載の横に、ちょうどそのシートを割る割り印のようにして、指印が押してあるのですが、これはだれの指印かというのはわかりますか。
  553. 植草被告人 これは私の指印だと思います。
  554. 弁護人1 さて、その記載の中で、あなたが納得できないところを話したということなんですが、どこの部分が特にそうなんですか。
  555. 植草被告人 歩行能力、正常に歩行したというところにマルが囲まれていますが、これが私の認識と違っていたからです。
  556. 弁護人1 どのように違っていたのですか。
  557. 植草被告人 歩く実験のようなものをさせられたのですが、真っすぐには歩けたと思いますが、正常な歩き方ではなかったということです。
  558. 弁護人1 それを正常に歩行したというところにマルがしてあるので、あなたとしては納得がいかないということだったのですか。
  559. 植草被告人 はい、そうです。
  560. 弁護人1 翌日の9月14日に警察で取り調べを受けましたか。
  561. 植草被告人 はい。
  562. 弁護人1 9月14日付の員面調書というものがあるのですけれども、そこにはあなたの身上経歴等が書かれています。そのとき作成されたものということは間違いないですかね。
  563. 植草被告人 はい。
  564. 弁護人1 この取り調べをした警察官から、その翌日の話なんですが、女性がどのような被害を訴えているのかについて説明があったのですか。
  565. 植草被告人 全くありません。
  566. 弁護人1 その警察官から身上経歴以外のことで何か聞かれたことがありましたか。
  567. 植草被告人 はい、ありました。
  568. 弁護人1 どのようなことを聞かれましたか。
  569. 植草被告人 痴漢をやったんだろうとか、やったといえとか、そういうことをいわれました。
  570. 弁護人1 あなたはそれに対してどのように答えましたか。
  571. 植草被告人 私は、やったという認識はないし、やった覚えはないというふうにいいました。
  572. 弁護人1 あなたの方から、どのようなことを疑われているのかということをその警察官に対して質問をしたり、確認したりするようなことはなかったんですか。
  573. 植草被告人 一体何を疑われているのかということを何度も聞きました。
  574. 弁護人1 それに対して警察官はどのように答えましたか。
  575. 植草被告人 一切答えませんでした。
  576. 弁護人1 当日は弁護士の接見、面会がありましたか。
  577. 植草被告人 はい、ありました。
  578. 弁護人1 何時ごろでしたか。
  579. 植草被告人 昼過ぎと夜の2回ありました。
  580. 弁護人1 弁護士の名前は覚えていますか。
  581. 植草被告人 はい、覚えております。
  582. 弁護人1 だれですか。
  583. 植草被告人 K弁護士とM弁護士です。
  584. 弁護人1 そのとき、どのような相談をして、どのようなアドバイスを受けたか、覚えていますか。
  585. 植草被告人 私は女性の声を聞くまでのことは覚えてない。ただ、私は痴漢をしたという認識はないということをいいました。それに対して、わからないことは認めないように、そういうアドバイスを受けました。
  586. 弁護人1 検察庁に初めて行ったのは何日だったか覚えていますか。
  587. 植草被告人 はい、9月15日です。
  588. 弁護人1 検察官から、電車内で女性に対してどのようなことをしたのかについて具体的な説明がありましたか。
  589. 植草被告人 はい、そのとき初めて具体的に何を疑われているのかということを知りました。
  590. 弁護人1 そのときの検察官の言葉を聞いて、あなたは理解できましたか。
  591. 植草被告人 かなり早口で、こういう疑いがあるということを聞かされたのですが、細かい点で少しわからない部分がありましたけれども、おおよそ全体の疑いの内容というのがわかりました。
  592. 弁護人1 それに対してあなたはどのように答えましたか。
  593. 植草被告人 私は、聞かされた内容が、やっていないということをいいました。
  594. 弁護人1 裁判所で裁判官から勾留質問というものを受けたのはいつだったか覚えていますか。
  595. 植草被告人 その翌日の9月16日です。
  596. 弁護人1 そのときの裁判官から、電車内で女性にどのようなことをしたのかについて、具体的な説明を受けましたか。
  597. 植草被告人 どういう疑いであるかは前日と同じ言葉だったと思いますが、その日は非常に親切に対応してくれましたので、わからない点をいろいろ聞いて、よくわかりました。
  598. 弁護人1 これに対して、あなたはどのように答えましたか。
  599. 植草被告人 私はそういうことはしていないといいました。
  600. 弁護人1 蒲田警察署で最初にあなたが弁解録取書で答えたときと、この裁判官、あるいは検察官に対して答えたときとでは、答えた内容が違いますか。
  601. 植草被告人 はい、違います。
  602. 弁護人1 それはどうしてですか。
  603. 植草被告人 それは、9月15日までは具体的に私が何を疑われているのかわからなかった。そして、私はやったという認識はないし、やった覚えはないというふうにいっておりましたが、9月15日以降、具体的にこういうことで疑われているというのを聞きまして、その内容であれば、自分は絶対にないという自信を持って、そのようなことはしていないとはっきり述べました。
  604. 弁護人1 9月13日の京浜急行の車両の中から、今この現在に至るまでの間で、あなたが、その女性が訴えている以外について認めるようなことを一度でもいったことがありましたか。
  605. 植草被告人 私は一度もそういうことをいっておりません。
  606. 弁護人1 ところが、あなたが疑われているようなことを認めたというように書かれた書類が存在するということに気づいたのはいつのことでしたか。
  607. 植草被告人 それは接見禁止に関する検察官からの書面を私が見まして、それを初めて知って驚きました。
  608. 弁護人1 その書面というのは準抗告申立書という書類だったですか。
  609. 植草被告人 そうです。
  610. 弁護人1 あなたがその書類を入手したのはいつごろでしたか。
  611. 植草被告人 その準抗告申立書に記載されている日付よりは少し後だと思います。
  612. 弁護人1 そのことを知って、あなたはどのように思いましたか。
  613. 植草被告人 その書類の中に、私が駅で犯行を認めていたようなことが書かれていることを知りまして、びっくりして、憤りを感じました。
  614. 弁護人1 そんな書類が存在していることをそれまでは知らなかったですか。
  615. 植草被告人 全く知りませんでした。
  616. 弁護人1 その書類を作成したという警察官が、この公判廷に出てきて証言をされたのをあなたも聞いていましたね。
  617. 植草被告人 はい。
  618. 弁護人1 その警察官は、あなたが電車の中で女性に不快感を与えるようなことをしましたと答えたと証言したのですが、実際にそのように答えた事実はあるのですか。
  619. 植草被告人 絶対にありません。
  620. 弁護人1 先ほどの準抗告申立書を見て、このような書類があることを知って、あなたは先ほど驚きましたということでしたけれども、この書類について、あなたはどのように思いましたか。
  621. 植草被告人 そのような書類が捏造されているということを知って、激しい怒りを感じました。
  622. 弁護人1 その後の警察での取り調べの際に、このような書類があることについて、あなたからその取り調べの警察官に対して何か話をしたことがありましたか。
  623. 植草被告人 はい、ありました。
  624. 弁護人1 どのようなことを話しましたか。
  625. 植草被告人 私はその申立書を見た後で、取り調べの際に、そのことを問いただしたところ、その取り調べの警官は、「そんなことまで知ってるの。恐ろしいね」というようなことをいいました。
  626. 弁護人1 その警察官はそれ以外に何か感想を述べましたか。
  627. 植草被告人 そのときに「でっち上げだというんだな」といいました。
  628. 弁護人1 でっち上げというような表現を、あなたはその取り調べをした警察官以外の人の口から聞いたことがありましたか。
  629. 植草被告人 はい、ありました。
  630. 弁護人1 それはだれですか。
  631. 植草被告人 それは検察庁での検事からです。
  632. 弁護人1 そのときはでっち上げという意味が理解できましたか。
  633. 植草被告人 それはたしか9月15日だったと思いますが、意味が全くわかりませんでした。「でっち上げだといっているらしいね」といわれて、「いや、そんなこといってません」といいましたが、何を質問されているのか意味がわかりませんでした。
  634. 弁護人1 あなた自身がでっち上げだという表現を使ったことがありましたか。
  635. 植草被告人 私は一切そういうことをいっておりません。
  636. 弁護人1 では、なぜその検察官がそんな表現をしたのかというふうに思いましたか。
  637. 植草被告人 先ほどもいいましたけれども、私を取り調べた警察官に、こんな書類があるというのを問いただしたときに、「でっち上げだというんだな」といいましたので、それをつなげて考えると、9月14日の取り調べのときに、駅で警察官に認めたのじゃないかと聞かれたときには、「そんなことありません」と私は答えたのですが、それを警察が対外的に、本人がでっち上げだといっているというふうに発表したのを検察官が聞いて、私に会ったときにそれをいったのだと、そう解釈しました。
  638. 弁護人1 警察が発表して検察官が聞いたというのは、どういうことを意味するのですか。
  639. 植草被告人 そこは推測ですけれども、私が9月14日に……。
  640. 弁護人1 いや、私が聞いているのは、直接検察官が警官から聞いたということなのか、対外的に発表してマスコミで流されて、検察官が聞いたと思ったのか。
  641. 植草被告人 検察官がネットに流れている情報をいろいろと読んで、それを取り調べのときにいっているような感じがしたので、そういうことかなと思いました。
  642. 弁護人1 かわります。
  643. 弁護人2 そうしましたら、ちょっと話が変わりまして、再現実験のビデオ撮影のことについて聞きますけれども、あなたは、弁護人らが行った再現実験のビデオ撮影に立ち会いましたか。
  644. 植草被告人 はい、立ち会いました。
  645. 弁護人2 先ほど被告人の供述に基づく再現ビデオというのを上映したのですけれども、それ以外にも再現ビデオというのをつくって、あなたが立ち会ったことはありますか。
  646. 植草被告人 はい、あります。
  647. 弁護人2 それは簡単にいうと、どういう再現ですか。
  648. 植草被告人 それは被害者の供述に基づいて再現したというものです。
  649. 弁護人2 そうすると、大きく分けると、被告人の供述に基づく再現ビデオと、被害者の供述に基づく再現ビデオ、2回の再現実験をやっているということですか。
  650. 植草被告人 はい。
  651. 弁護人2 そうしましたら、まず、先ほど上映した被告人の供述に基づく再現の関係で確認させていただきますけれども、再現実験ビデオ撮影報告書その2の添付写真を示します。添付写真の15を示します。ここには「左回りパターン」というふうに書いてありますね。
  652. 植草被告人 はい。
  653. 弁護人2 被害者の女性が左に回っている様子ですね。  次に写真16を示します。これは連続写真で同じように明記されております。17を示します。18を示します。左に向き、回り終わって、ほぼ被告人の顔と対面したようになっておりますね。写真19を示します。  今お見せした写真15から19ですけれども、この写真の中で、動いている被害者の動きというのは、先ほどあなたが法廷で供述した、あなたが被害者の声を聞いて、顔を上げて見たときの被害者の挙動を再現したものというふうに聞いてよろしいですか。
  654. 植草被告人 はい。
  655. 弁護人2 写真18の段階で、あなたの方で目をあけているということになっていますね。その後、写真19があって、今度、写真20あたりを見ていただくと、被告人自身が若干右に向く様子。20、21、22も右に向いている。23、24あたりは完全に右に向いていますけれども、このように、今度は被告人が右側の方に振り向くというのは、これは先ほどあなたが法廷で供述したご自分の行動、これに基づいて再現したものだということでよろしいですか。
  656. 植草被告人 はい、そのとおりです。
  657. 弁護人2 次に、これの添付図面2を示します。ここに2という数字があるのがわかりますか。
  658. 植草被告人 はい、わかります。
  659. 弁護人2 この2という数字に矢印がついていますけれども、あなたが立っていたのは、この図面でいうと、どの位置ですか。その2の位置でよろしいわけですか。
  660. 植草被告人 そうです。
  661. 弁護人2 あなたが被害者の声を聞いて、あなたが目をあけたときのあなたの体の向き、これがこの矢印で示されているということでよろしいですか。
  662. 植草被告人 はい、そうです。
  663. 弁護人2 次に、添付写真の34を示します。これは「右回りパターン」と書いてありますけれども、これは被害者が右回りに振り向いている状況を再現したものですが、34、35、36、37です。37、38あたりでちょうどあなたと被害者が正対するような状況になっていますけれども、右回りに振り向くというのは、あなたの記憶とは違っているのですか。
  664. 植草被告人 はい。
  665. 弁護人2 その後、今度は38以降、39、40で、今度はあなたが若干右の方に顔を向ける様子が出てきますね。
  666. 植草被告人 はい。
  667. 弁護人2 41、42、43、44、45。被害者があなたの方を向いた後で、あなたがこのように右側を向いて、若干うつむくという状況が写真に撮影されていますが、これも先ほどあなたが法廷で証言されたとおり、当時のあなたの記憶に基づいて、その状況を再現したものですか。
  668. 植草被告人 はい、そうです。
  669. 弁護人2 このような再現実験を行って撮影したビデオはごらんになりましたか。
  670. 植草被告人 はい、見ました。
  671. 弁護人2 それを見て、どのようなことを思いましたか。
  672. 植草被告人 私は当時、女性の声を聞いて、騒ぎに巻き込まれたくないと思って、目を背けて、下を向いて、向きを変えて立っていましたが、その声にみんな驚いて、他の乗客がこちらに注目する姿を見ると、あっ、これでは私が犯人に間違えられてしまうなというように思いました。
  673. 弁護人2 それから、今の関係で若干補充ですけれども、真犯人の位置なんですけれども、あなた自身は、このビデオに出てくる真犯人役の人というのは実際に目撃しているんですか。
  674. 植草被告人 いえ、見ておりません。 
  675. 弁護人2 そうすると、この真犯人役の位置というのは、これはどのようにして決めたのかわかりますか。
  676. 植草被告人 これは弁護士の方がいろいろな証言とか証拠などに基づいて指示をして決めたものです。
  677. 弁護人2 被害者の方の供述だと、真後ろに犯人がいて密着していたということなので、これに従って決めたということは聞いていますか。
  678. 植草被告人 それは聞いています。
  679. 弁護人2 ただ、先ほどビデオを見たときに、立ち上がりのビデオの映像だと、犯人役の人が被害者に密着していないで、始まると同時に、その犯人役の人が少し移動して、被害者に密着するような様子が、ビデオの立ち上がりのところに若干映っていましたけれども、これはどうしてこのようなふうになっているかわかりますか。
  680. 植草被告人 はい、わかります。
  681. 弁護人2 では、どういう理由からですか。
  682. 植草被告人 これは2つ、被害者の供述に基づく再現ビデオと、私の記憶をベースにした再現ビデオをつくりましたが、私の記憶に基づく再現ビデオのケースでは、痴漢の犯行の部分は省略して、ビデオを回し始めてから密着して撮ったものですので、その犯行の状況そのものが省略されているために、あのような映像になっているのだと思います。
  683. 弁護人2 つまり、今回のDVDのビデオでは、痴漢の状況そのものは、被告人であるあなた自身見ていないので、一切再現していないと。犯人役の人が被害者に密着した状態から始めるんだけれども、立ち上がりのところの関係で、その前の、まだ密着してない部分、そこの、要するに実際の再現が始まる前の準備の部分が若干映っていて、それで犯人役の人が被害者に接触していくような状況が、ビデオの最初に若干映っている、そういうことですか。
  684. 植草被告人 そうです。
  685. 弁護人2 その次に、先ほど話がありました被害者供述に基づく再現ビデオのことについて簡単に聞きますけれども、このビデオの撮影にあなたは立ち会いましたか。
  686. 植草被告人 はい、立ち会っております。
  687. 弁護人2 あなた自身は被告人役をやったんですか。
  688. 植草被告人 いえ、私はやっておりません。
  689. 弁護人2 被告人役は別の方がやったんですか。
  690. 植草被告人 そうです。
  691. 弁護人2 この再現のときに、被害者役はどなたがやったんですか。
  692. 植草被告人 Tさんという女性です。
  693. 弁護人2 先ほどのあなたの供述に基づく再現のときの被害者と同じ方ですか。
  694. 植草被告人 同じ方です。
  695. 弁護人2 それから、これは目撃者役は私がやったということですね。
  696. 植草被告人 そうです。
  697. 弁護人2 ほかの乗客役については省略しますけれども、簡単にいって、このとき実験の結果、どういうことがわかったかというのはわかりますか。
  698. 植草被告人 はい、わかりました。
  699. 弁護人2 それはどういう。全体の再現ですね。犯行状況全体の。被害者供述。
  700. 植草被告人 ……。
  701. 弁護人2 もう一度聞きましょうか。被害者の供述に基づいて再現ビデオをつくりましたよね。
  702. 植草被告人 はい。
  703. 弁護人2 被害者役と目撃者役、ほかにも若干乗客役がいたのですけれども、それから被告人役の方も参加しておりますが、このビデオを撮った結果、何かわかったことはありますか。
  704. 植草被告人 はい。目撃者からは被害状況が見えないということがわかりました。
  705. 弁護人2 それはなぜなんですか。
  706. 植草被告人 目撃者と被害者の間に立っていた女性が、目撃者の視界をさえぎる形になっていて、犯行の状況が見えないということがわかりました。
  707. 弁護人2 このときのビデオカメラというのはどのような位置に設置したかわかりますか。
  708. 植草被告人 目撃者の目の位置に合わせる形でカメラを設置して、撮影をしたということです。
  709. 弁護人2 それ以外にも、被害者供述に基づく再現で、何か行ったことはありましたか。
  710. 植草被告人 はい。被害者が真後ろにいる犯人の左手と傘を確認するために、体を左にひねって、その手と傘を確認をしようとするところを再現しました。
  711. 弁護人2 その結果、どのようなことがわかりましたか。
  712. 植草被告人 その結果、被害者が体を左にひねっての、犯人の左手及び傘を見ることができないということがわかりました。
  713. 弁護人2 この実験は、被告人供述に基づく再現を行った日にも再度行っているのですけれども、なぜ再度、もう一度行ったかご存じですか。
  714. 植草被告人 はい、知っております。
  715. 弁護人2 その理由は。
  716. 植草被告人 それは最初の実験で用いた傘が、当日私が持っていた傘とは長さや形が少し違うものでしたので、それに非常に近いものに変えて、再度再現ビデオをつくったということです。
  717. 弁護人2 あなたが事件当時持っていた傘というのは現在どうなっていますか。
  718. 植草被告人 それは警察署に押収されたままになっております。
  719. 弁護人2 その傘が使えないので、同じ形状のものを準備して、再度実験を行ったということですか。
  720. 植草被告人 そのとおりです。
  721. 弁護人2 再度実験を行った結果はどうでしたか。
  722. 植草被告人 その実験におきましても、被害者が体を左にひねって、犯人の左手、そして傘を見ることができないということがわかりました。
  723. 弁護人2 終わります。
  724. 神坂裁判長 弁護人からはもうよろしいですか。
  725. 弁護人1 はい。
  726. 神坂裁判長 それでは、もとの位置に戻ってください。
  727.      

    〔植草被告人、もとの位置に戻る〕

  728. 神坂裁判長 それでは、次回は反対尋問からということでよろしいですね。次回は、5月18日の午後1時15分から反対尋問を行うということにいたします。  それから、さっきのDVDの関係なんですけれども、前半と後半という部分が、2つが1つになっているものがあるようなので、一応それを分けて、従前請求されているものは一たん撤回していただいて、個別に分けて請求されるということでよろしいですかね。
  729. 弁護人2 わかりました。
  730. 神坂裁判長 それの3番目に当たるものについて、きょうの公判で検察官の方からご意見をいただいて採用するという対応をとるということでよろしいですか。 
  731. 検察官1 3番目というのは……。1番目というのは、以前、3月20日付、もっと前か。
  732. 神坂裁判長 2番目です。
  733. 弁護人1 2番目をきょう添えているだけなんですけれども。
  734. 検察官1 2番目というのは後からの部分をいっているのですか。
  735. 神坂裁判長 最初のものはもう。
  736. 弁護人1 前半なんですよね。ですから、前のが1とすると、今回2、3があって、2を……。 
  737. 神坂裁判長 そうです。その部分ということです。その方をお願いしている。撤回して請求していただく分。
  738.  番号の後の方を、きょうそういうことで……。
  739. 弁護人1 後の方にしますかね。
  740. 神坂裁判長 はい。
  741. 弁護人1 前半部分が後に来る形ですか。
  742. 神坂裁判長 そういう形になりますかね。作成の順番からいって……。
  743.  どっちでもいいですかね。番号が離れてしまいますから。
  744. 弁護人1 前半部分をきょう。
  745. 神坂裁判長 前半部分を。
  746. 弁護人1 2本目の。
  747. 検察官1 9、10、11……。
  748. 神坂裁判長 17、18。きょう裁判所の方で申し上げた弁号証の関係でいうと、17、18になりますので、17番について、本日の最初にいったDVDビデオ、18については保留ということです。17について本日付で同意ということです。
  749. 検察官1 立証趣旨……。
  750. 神坂裁判長 そうですね。17の立証趣旨、結局被告人陳述に基づく推測ということですね。見てないというふうに答えておりますから、推測に基づく再現実験というふうな形です、強いていえば。  それでは、そういうことで、次回は5月18日午後1時15分からということです。  本日はこれで終わります。
 
※当サイトはリンクフリーです。公判記録は「検証する会」の方々からお借りしているので、転載はご遠慮ください。